時計の針は、午後3時を少し回った頃。
子どもの帰りを待つ母親は、何やらソワソワと落ち着かない様子。
「確か、今日は“習字”の授業があったはず・・・」
ほどなくして、そんな母の胸中など知るよしもない息子が帰宅。
「ただいまー!!」
彼が着るそのTシャツには、母の予想をこえる多量の黒い点が散っていた…
墨のシミはプロでも手こずる落ちにくい汚れの代表選手
暗く濃い闇を湛え、見るからに落ちにくそうな墨のシミ。
そうです。
墨のシミは、あらゆるシミの中でも最も落ちにくいシミのひとつ。
得に、乾いてからではクリーニング店のプロでさえ悩ませるという曲者です。
そんな墨だけに、シミ抜きの最大のポイントは、とにかく「スピード勝負」ということ。
つまり、「乾かない内に落とす」
何と言ってもこれに尽きます。
乾いていない墨のシミと、完全に乾いてしまった墨のシミとでは、落ち方に大変大きな違いが生まれます。
そのため、ご家庭で何かの拍子に墨を衣類やマットにこぼしてしまった場合などすぐに対処をすれば、ほとんど分からない位まで落とすことが可能です。
しかし、一旦それが乾いてしまうと墨のシミは非常に落ちにくくなる上に、たとえ薄くはなっても「輪ジミ」のようなあとが残ってしまいがち。
クリーニングに出しても墨のシミは、取れない場合の方が多いかもしれません。
では、そんな手強い墨のシミをご家庭で取り除くには、一体どうすればいいのでしょう…?
墨のシミ抜きで必要なものは意外と少ない
墨のシミ抜きで必要なものは、「マジックリン」と「固形石鹸」だけです。
ひとたび付いてしまうと、とにかく取り除くのに大変な労力を要する印象が強い墨のシミだけに、「え?それだけ?」と意外に感じる方も多いかもしれませんね。
墨のシミは完全に乾いてしまうと、プロのクリーニング店でも落とすのがむずかしい汚れのひとつになってしまいます。
墨のシミが完全に乾いてしまった場合は、先ずプロのクリーニング店にご相談ください。
ここでは、墨のシミが乾く前の処理方法に限ってお伝えします。
《手順①》
衣類に墨のシミが付いた場合は、先ずシミの部分に水で2~3倍に薄めたマジックリンを掛けてから、そこに固形石鹸をこすりつけ、揉み洗いします。
《手順②》
すぐに墨が衣類全体に広がりますので、水道水でよく洗い流します。
《手順③》
再度、墨のシミにマジックリンと石鹸をすり込み、揉み洗いします。
墨のシミが無くなるまで、「石けんで揉み洗い~水道水で洗う」という工程を繰り返してください。
墨のシミは衣類の素材によっても落ち方が違う
墨のシミは、衣類の素材によっても落ち方が異なります。
たとえば、ウール製品の場合。
ウール製品は綿製品などに比べると、墨のシミは比較的落ちやすい方です。
しかし、繊維の耐久性が綿よりも低いため、揉み洗いし過ぎるとその部分が後で硬くなります。
そのため、揉み洗いするよりも、和裁用のへらなどでシミをしごき出す様にして汚れを落とす方が良いでしょう。
もちろん、その際には出来るだけ優しく洗うように心掛けてください。
一方、綿やポリエステルで厚手の白い衣類の場合は、ある程度ごしごし揉み洗いしても大丈夫です。
しかし、柄色物の場合は、当然ながら色落ちする可能性があるため、以下の方法で事前に「色落ちテスト」を行っておくことをおすすめします。
① 白いタオルに洗浄液(洗剤)や水をつけます。
② 洗浄液(洗剤)や水をつけたタオルで、衣類の目立たない場所をトントンと軽くたたきます。
もし、この色落ちテストでタオルに色がついた場合は、それは「シミ抜きNG」のサイン。
ご家庭での処理は控え、お近くのクリーニング店にご相談ください。
レーヨンやシルクなどの場合は、揉み洗いは絶対に控えましょう。
どちらも非常にデリケートな繊維になりますので、最悪の場合生地が裂けたり破れたりする事態になりかねません。
ちなみに、麻の場合はかなり白けてしまいます。
墨のシミが付いた衣類によっては直ぐにクリーニング店へ
レーヨン、シルク、麻のようなデリケート素材に墨のシミを付けてしまった時は、できるだけご自宅洗で洗おうとはせず、きちんと染み抜きを行っているプロのクリーニング店に持ち込むようにしてください。
しかし、お店に持って行き実際にシミ抜き作業に掛かる頃には、当然シミは乾いてしまっていますので、完全に取り除くのは現実的にかなり難しくなってしまうでしょう。
現実問題として、衣類に墨のシミを付けてしまった場合は、プロのクリーニング店に持ち込んだとしても、「墨のシミは落とせません」とそのまま返ってくるケースが大半となっています。
そのため、「悪・即・斬」ではありませんが、墨のシミは付いて直ぐの乾いていない段階でいかに早く処理できるか…によって、結果が大きく変わってくるものなのです。