汚れた洗い物は洗濯機に放り込み、洗剤や柔軟剤、時には漂白剤なども併せて投入。
あとはスイッチを押しさえすれば、洗いから脱水、乾燥にいたるまで全ての工程が指先ひとつで済んでしまう“洗濯”という作業。
何かと面倒なことが多い家事の中でも、「洗濯はラクだから苦にならない」という声は多く聞かれます。
実際に洗濯は、「好きな家事ランキング」でも男女共に上位にランクインする実力者。
しかし、現在のような全自動洗濯機が登場する以前の洗濯事情というのは、今とは比べ物にならなほどの重労働だったのです。
かつては重労働だった洗濯事情
ではここで、昔の洗濯事情について少し触れてみることにしましょう。
かつての日本では、川や井戸水での揉み洗いやふり洗いが中心でした。
それが着物を着る時代になると、“伸子張り”や“板張り”と呼ばれる洗濯方法が普及。
ヨーロッパやアジアの一部では、川の岩の上に洗濯物を置き、踏み洗いをする光景が見られました。
特に、羊毛を用いた衣服が作られるようになったヨーロッパでは、毛についた汚れ落としとして、白土や腐らせた尿を脂汚れ落としに利用したこともあったそうです。
やがて、リネンや木綿などの織物が登場すると、泡立つ植物を石けんの代用として洗濯したり、洗濯板を用いた洗濯方法が一般的になりました。
そして、この頃になって登場したのが、草木の灰汁と動物脂から作った軟石鹸と、オリーブ油と海草を焼いた灰から作った硬石鹸です。
アルカリと脂肪酸から出来ている石けんはその後、化学的な方法で作る技術が考案され、現在の様々な洗濯洗剤へと姿を変えていったのです。
様々な異名を持つ“洗濯植物”の存在
古くから洗濯洗剤の代用として使われていた植物の中に、“サボンソウ”というものがあります。
サボンソウは、根を切ったものと水を容器に入れて振り混ぜると、たくさんの泡を生じます。
見た目的には、まるで洗濯洗剤を水に溶かしたような光景を彷彿とさせますが、試しにそこへ汚れたガーゼなどを入れて洗ってみても、残念ながら期待するような汚れ落ちの効果は得られません。
それでもサボンソウには、「Common Soapwort、Bouncing Be」という英名がつけられた他、
✔ 泡の出る根(latherwort)
✔ カラスの石鹸(crow soap)
✔ 石鹸の根(soap root)
このように石けんや洗濯に関係する別名を複数持つことからも、石けんの代用として昔の洗濯では頼りにされていたことがわかります。
また、サボンソウと同様に洗濯に使われていた植物のひとつに“ムクロジ”というものがあり、ムクロジの場合は果皮を使うとたくさんの泡立ちが起きますが、やはりその洗浄力はイマイチと言わざるを得ない結果となります。
ちなみに、ここでご紹介したサボンソウの泡立て実験は、以下の方法で試すことができますので、興味のある方はチャレンジしてみてください。
きっと、現代のような優れた石けんや洗剤が無かった当時の洗濯が、いかに大変であったのかを知ることができると思います。
サボンソウを使った泡立て実験
- サボンソウの根(生)…2g
- 水…10cc
- 試験管、フラスコ、ガーゼなど
- サボンソウの根(生)2gを2mmくらいの長さに切る
- 10ccの水とともに容器に入れ、蓋をして振る(50回)
- 容器へ3cm角に切ったガーゼを入れる
- 蓋をして振り混ぜる(50回)
- 容器から取り出す
洗濯に使われていた植物~地域別一覧
- サボンソウ(Saponaria officinalis L.)…根を乾燥させたものをサポナリア根といい、梅毒や皮膚病の薬としても使われました
- ナデシコ科センノウ属の一種(lychinis flos-cuculi)
- ナデシコ科マンテマ属の一種
- アカザ科アカザ属の一種(Chenopodium californicum)の根
- ムクロジ科ムクロジ属(soapberry)
- ムクロジ(Sapindus mukorossi Gaertn./Soapberry、Chinese soapberry、Soapnut Tree)
- シャボンノキ(Sapindus saponaria L./Soap Wood Tree、 Soapberry、Soap Tree)
- ナンキンハゼ(Sapindus sebiferum L./Chinese Tallow Tree)・・・油脂を石鹸に利用していました
- ハマビシ科の一種(Balanites aegyptica L.)…果実のパルプ質は食用になるほか、絹の洗濯にも使用され、種子の黄色の油は石鹸製造に適するといわれています。
- サイカチ・・・果皮のさや(ソウキョウ)が石鹸の代用として使われました
- ムクロジ
- トチ・・・実を利用
- ※草木の灰汁も石けんの代用として使用