現代の洗濯事情において、欠かすことの出来ない存在となった洗濯石けんや洗濯洗剤。
ところで、そもそも洗濯石けんと洗濯洗剤の違いとは一体何なのでしょうか?
単純に、「石けん=固形」「洗剤=液体あるいは粉末」という見た目のイメージで区別している方も多いと思います。
どちらも汚れを除去する“洗浄剤”という点では同じものですが、両者の地違いは使われている原料にあります。
✔ 洗剤…化学合成によって作られた合成界面活性剤
こうした理由から、洗濯洗剤は“合成洗剤”の名前で呼ばれるのが一般的です。
そのため、○ップ、ア○エール、ニュー○ーズ、ア○ックなど、店頭に並べられている代表的な洗濯洗剤の多くは、合成界面活性剤を含んだ“合成洗剤”ということになります。
合成洗剤の始まりはドイツから
ヨーロッパのドイツで石油を原料にした合成洗剤が開発されたのは、1917年のこと。
しかし、この頃の合成洗剤は洗浄力の低さから、庶民の間で広く普及することはありませんでした。
その後、1928年に入ると“アルキル硫酸エステル塩(AS)”が開発され、世界で最初の家庭用合成洗剤が発売されます。
さらに、それから5年後の1933年には“アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)”が開発され、終戦後に“リン酸塩”やCMCの配合剤(ビルダー)が見つかると、合成洗剤の洗浄力は飛躍的な向上を見せました。
それでも当時の洗濯洗浄剤としては、やはり石けんがまだまだ主役。
しかし、第二次世界大戦後にアメリカでは石油資本の生産が増大し、電気洗濯機が一般家庭にも普及。
さらにはアメリカやヨーロッパで、硬水を使った洗濯時に発生する石けんカスの問題などから、合成洗剤への目が急速に高まり、洗浄剤の主流は合成洗剤へと代わっていきました。
その結果、アメリカでは1953年に、日本では1963年に合成洗剤の生産量がついに石けん追い抜いたのです。
合成洗剤の転換期・その1~合成洗剤のソフト化
そんな合成洗剤の歴史を紐解いて行くと、合成洗剤の進化は常に環境問題との戦いでもあったことに気付かされます。
自然界では人の手を借りずとも、有機物を処理する“微生物”の働きによって浄化されています。
しかし、洗濯をはじめとした台所やお風呂などから出される生活排水には膨大な量の洗剤が含まれているため、微生物による自然の浄化作用をもってしても浄化が追いつかず、水質汚染という問題が生じてしまいました。
その後、初期の合成洗剤には微生物に分解されにくい“アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS)”が多量に含まれていることが判明。
合成洗剤にはABSに代わって微生物に分解されやすい性質をもつ“直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)”が使われることになり、「ソフト洗剤」として売り出されるようになったのです。
日本ではソフト洗剤への移行が1971年には97%に達し、現在の合成洗剤でABSが使われることはなくなりました。
合成洗剤の転換期・その2~合成洗剤の無リン化
アメリカやヨーロッパの洗濯では、“硬水”がよく使われます。
しかし、硬水に多く含まれるカルシウムやマグネシウムは、石鹸の分子と結合して洗浄力を弱めてしまうため、石鹸カス(金属イオン)を発生させるという欠点がありました。
そこで取られた対策というのが、界面活性剤の働きを助ける助剤(ビルダー)として、リン(ポリリン酸ナトリウム)を洗剤に配合するというものです。
生物が生きていくために必須の成分であるリンですが、自然界には不足気味なため、水中の植物の繁栄を抑えるという働きを持っています。
ところが、リン配合物が生活廃水として川や湖に流れ込むと、水中でのリン濃度が急速に増加。
それは結果として植物プランクトンなどの急激な繁栄を招き、赤潮などが発生する新たな環境問題が浮上したのです。
こうした問題は、“富栄養化”と言われ、1980年に制定された琵琶湖富栄養化防止条例によって、国内の合成洗剤は無リン化への道を歩み始めることになりました。
洗剤メーカー各社はこぞって、成分にリンを含まない合成洗剤の開発に着手。
そして同年の1980年に、リン酸塩の替わりにゼオライト(アルミノケイ酸塩)を配合した無リン洗剤が発売開始となりました。
それ以降、家庭用の合成洗剤はほぼ無リン化されることになったのです。
さらに昭和60年代になると、コンパクト洗剤や酵素入り洗剤などが登場し、現在の合成洗剤の主流とも言えるスタイルが確立されていきました。