『FU(エフユー)』
まるで、某ファストファッションブランドを思い起こさせるその響き…
実はこれ、旧日本海軍の士官が使っていた“隠語”のひとつで、日本男児の魂とも言うべき“FUNDOSHI(フンドシ)”を指す言葉なのです。
FUNDOSHIの頭2文字を取って“FU”というわけですね。
“下着”といえば、当時はフンドシが当たり前の時代。
旧日本海軍でも、士官や水兵といった身分の違いに関係なく、皆がフンドシを締めての航海でした。
では、そんな軍人さんたちは海の上で、自らのフンドシをどのように洗っていたのでしょうか…?
大和魂に込められたフンドシの洗濯秘話
結論から言うと、士官たちがフンドシを洗濯することはありませんでした。
なぜなら、
「汚れたフンドシを他人の目に晒すことは、海軍士官にとって恥ずべきこと」
時代背景的に、こうした考え方が浸透していたからです。
では、汚れたフンドシはどうしていたのでしょう?
任務が終わって再び祖国の土を踏むその日まで、同じフンドシを締め続けていたのでしょうか?
そんなことはありません。
衛生面の良し悪しは兵士の士気をも左右する重大要素という見方が強かったため、汚れたフンドシを締め続けるようなことはなかったのです。
これは多くの方にとって驚きの事実かと思いますが、汚れたフンドシは…
『脱いだらポイッ』
なんと!士官たちのフンドシは使い捨てだったのです!
「え~!もったいない!」という声が聞こえてきそうですが、浴室の脱衣場には士官たちが使用したフンドシを捨てるカゴが置いてあったとのこと。
使用済みのフンドシは任務遂行上の理由から焼却処分され、他のゴミのように海へ流すようなことはありませんでした。
海上にフンドシがヒラヒラ浮いていては、敵の艦隊に「我々はここにいましたよ」と自ら告げているも同然ですからね。
中には自室の窓から海上へポイしてしまう士官もいたそうですが、そうした行為は重大な違反行為にあたり、厳しい処罰の対象になっていました。
洗濯の全てを請け負う“洗濯夫”の存在
では、使い捨てが前提のフンドシを除く旧日本海軍の洗濯事情とはどのようなものだったのでしょう?
実は一般的な洗濯物も、士官たちが自ら洗うことはありませんでした。
ワイシャツからハンカチ、枕カバーに至るまでの全ての洗濯物は、軍艦に乗り合わせるプロの洗濯屋“洗濯夫”に任せていたのです。
“艦営傭人”という身分を持つ洗濯夫は、正式には軍人という扱いではありませんでしたが、戦闘訓練ではそれぞれに持ち場があり、本業の洗濯では料金とは別に手当がつけられていました。
軍艦に乗っている以上、戦闘に巻き込まれる危険とは常に隣合わせとはいえ、陸上での営業よりも確実に稼ぐことができる洗濯夫の仕事は、自分の店を開業したい人たちにとって大きな魅力となっていたのです。
そんな洗濯夫たちの仕事場は、軍艦の上甲板に用意された洗濯室でした。
洗濯室には大型洗濯機と回転式乾燥機が置かれ、隣にはアイロンを掛ける仕上げ室も完備。
洗濯夫はそこで士官たちから料金を受け取り、洗濯を引き受けていたのです。
ちなみに士官たちの洗濯物は、彼らよりも身分が低い“従兵”らの手によって集められ、洗濯室へと運ばれていました。
戦況を反映した兵士たちのフンドシ事情
使い捨てを前提とした士官たちのフンドシ。
しかし、それも補給の乏しい前線に舞台が移れば、事情は大きく変わってきます。
まず、新品のフンドシは紐の部分を切って一枚布にされた後、タオルとして使われていました。
そして、ある程度使用してくたびれてくると再度紐が縫い付けられ、そこでようやくフンドシ本来の役目を果たすのです。
古くなったフンドシは、最終的に痛みの少ないところを縦に裁断し包帯として使用するなど、たとえ一枚のフンドシであっても再利用に再利用を重ねる徹底ぶりでした。
このようなフンドシ事情は、何も戦地に赴く士官たちだけに限ったことではありません。
たとえば、かつて江田島に存在していた海軍兵学校の生徒たち。
彼らの被服は、軍装から下着まで全てが貸与品で、私服を身につけるこは一切禁止されていました。
そのため、着てきた私服はひとつにまとめて実家に送り返された後、入校したその日からフンドシの着用が義務付けられたのです。
フンドシには定数があり、1人4枚までという決まりがありました。
たった4枚のフンドシですから、当然こまめな洗濯でローテーションしていかなくてはなりません。
しかし、フンドシは他の軍装とは違いクリーニングに出すことを禁じられていたので、生徒たちは学校の屋上にある物干し場で手洗いしていました。
その後、ただでさえ少ないフンドシの定数は、戦争末期に入ると物資の不足により4枚から3枚に減らされること。
しかも、そのうち2枚は木綿とは異なる素材を使った布地で出来ており、洗うと縮んでゴワゴワになるなど、使用感はイマイチだったそうです。